ー生活困窮者自立支援制度 就労支援プロジェクト視察報告ー    富士市 ユニバーサル就労推進条例

保健・福祉・男女共同参画・消費・ボランティアなど、生活に関わりの深い機能を持った複合施設「富士市フィランセ」内にあります。


富士市は、全国で初めてユニバーサル就労推進を条例で定め、取り組んでいます。その経緯や現状を伺うべく、11月14日に、富士市を訪れました。
ユニバーサル就労推進条例のきっかけは、障害を持つ子供たちの親の会による、ユニバーサル就労に積極的な企業誘致を望む署名だったそうです。それが、障害者のみならず、様々な理由で働きたくても働けない全ての市民に向けた幅広い対象となり、議員提案で条例化されました。条例自体は、理念条例であり、罰則や義務規定がある訳ではありませんが、条例に定めることで、市が一丸となって、ユニバーサルな働きをすすめていくという姿勢を打ち出し、必要な体制やネットワークの形成の大きな後ろ盾となっています。
条例の第1条には、
全ての市民が生きがいを感じながら安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする。
(一部抜粋)と定め、
第3条では、基本理念に
ユニバーサル就労は、様々な理由により働きたくても働くことができない状態にある全ての人がその個性や意欲に応じて能力を発揮し、社会の構成する一員として社会経済活動に参加することを基本とし、市、市民、事業者及び事業者団体の協働により推進されなければならない。
と定められています。
対象を限定せず、障害、病気、引きこもり、子育てや介護といったあらゆる就労にハンデとなる可能性を持つ、すべての市民に向けた幅広い取り組みであることをまず定めることで、制度の狭間に陥る人のないセーフティネットに大きな貢献をしていると感じました。
実際の運営には、
生活困窮者窓口とユニバーサル就労相談窓口を一体化し、富士市ユニバーサル就労支援センターが相談から就労支援といった業務を運営しています。運営主体は、人材派遣会社「東海道シグマ」がプロポーザル委託により担っています。
お話を伺った就労支援センターの三好さんは、
10の能力がなければ就職が難しい世の中で、8ならばその人にあった働き方を2の支援を付けることで可能にする。それがユニバーサル就労(=支援付き就労)。実施には、職場環境の形成が不可欠ですが、それを行うのが、この就労支援センターの役目だ。
とおっしゃっていました。
就労支援というと、生活困窮者自立支援制度では、就労準備支援、認定就労訓練事業といった形態で、分けられていますが、富士市ユニバーサル就労支援センターでは、制度の枠にとらわれないコミューターという働き方を活用しています。就労体験・無償コミューター・有償コミューターとステップを分け、受け入れ事業者は、協力企業として登録をします。手続きが煩雑で、敷居の高い認定事業者を増やすことよりも、負担を少なくし、事業者の協力を得ていくという手法です。きめ細かな企業支援も必要となりますが、富士市の25万人という規模、製紙産業などで発展した「産業のまち」であることなども、背景となって順調に進んでいることも伺えました。
また、富士市役所も就労困難者の受け入れを行っています。まずは市が身をもって示すという姿勢は本来どの自治体にもあるべき姿だと思います。
横浜市においては、障害者就労は、法定雇用率に従って受け入れているものの、生活困窮者含むその他の就労困難者の受け入れは行われていません。障害、生活困窮、保護というカテゴリーに分けられ、狭い枠の取り合いになっている現状を、対象を限定することなく、働きづらさを抱える全ての人への支援へと転換してゆくことが必要です。ユニバーサルな広い概念のもと、あらゆる人を差別なく就労によって社会へとつなぐ取り組みには、これからの持続可能な社会へ広がりを感じます。生活困窮者自立支援制度の上でも、こうした概念の転換が必要であり、「断らない支援」の前提にあるのではないか。だれでも支援につなぐことができる広い制度となっていくことを今後も求めていく、その方向性を確認することができました。