どうなる?介護保険〜総合事業の課題〜

ネット青葉では、7月24日、オンライン学習会「どうなる?介護保険〜総合事業の課題〜」を開催しました。
講師は、日下部雅喜さん
日下部さんは、堺市で、福祉行政に職員として従事し、その後ケアマネジャーとして現場で活躍をされた経歴の持ち主。現在は、現場で働きながら大阪社会保障推進協議会の委員長、介護保険料に怒る一揆の会で事務局長をされています。
以前、拝聴したオンラインフォーラムで、総合事業を「無資格安物サービス」と的確に表現されていて、思わず「うまい!」と声を上げてしまった私。現場、そして行政に精通し、わかりにくいと言われる総合事業を、明快に解説、紐解いていただこう。ということで、今回講師をお願いしました。

日下部雅喜さん

総合事業とは・・・2015 年、第7 期介護保険制度から、要支援1・2が「介護予防・日常生活支援総合事業」に移行され、介護保険制度は大きく変わりました。要支援者への訪問や通所サービスを有資格者のサービスから担い手の資格を緩和したり、住民主体のボランティアに広げることで、給付を抑制するものです。資格緩和型の総合事業は、今も要支援者へのサービスとしては成り立っておらず、むしろ既存の地域の介護事業を直撃しています。私たちは、改定のたびに要介護1・2までもが総合事業に移行されないよう、危機感を持ってアクションを続けてきました。2024年第9期の改定では、要介護1・2の総合事業移行は見送りとなりましたが、第10 期に向けた検討はすでに始まっています。

介護保険は、必要な時の為に保険料を納める「保険」でありますが、
総合事業は、介護保険給付ではありませんので、保険なのに保険ではない「奇妙な存在」であると日下部さん。

何より地域支援事業ですので、全国一律ではない。非常に自治体間格差が大きく、導入から8年、ますます格差は広がっているのが現状です。そこで、今回の学習会に向けて、この自治体間の比較を独自の目線で作成してくださいました。

日下部雅喜さん資料より

横浜市では、総合事業と言っても実はほとんどが従前相当サービス(これまで同様の有資格者によるサービス)によって賄われており、総合事業で導入された緩和したケアを利用している要支援者は1割にも満たない状況です。さらに、基準を緩和した訪問型のサービスA(報酬は横浜では1割減)の85%は、実際には有資格者が提供しているということが、横浜市が2020年に行ったアンケート調査から明らかとなっています。(横浜市の状況は、こちらでもレポート

「横浜市訪問型生活援助(サービスA)に関するアンケート結果報告書」より

また、通所型サービスBに関しては、延べ人数で計算しても要支援者の利用率はたった12.5%。横浜では、サービスBが、全世代型の居場所事業の補助金のように使われている現状があります。しかし、財源は介護保険です。保険として納めた保険料を含む以上、本来の目的に沿って、対象者の権利が守られる必要があります。

自治体比較を拝見すると、川崎市のように従前相当ではなく、ほぼサービスAでの実施に移行している自治体も多くあり、日下部さんの地元大阪市も6割が緩和型に移行しているとのこと。大阪市では、緩和したサービスの担い手確保のための研修を行っていますが、研修修了者の多くはヘルパーに従事していない。という実態も明らかに。しかし、緩和型の報酬は、大阪では25%減。やはり、有資格者が報酬を削りながら従事しているのが現状なのです。
ただでさえ、不足しているヘルパーをここまで追い込む仕組みは、あまりに酷。そういう意味では、従前相当サービスを95%残している横浜市は、まだ良いというべきか・・・

いやいや、やはり総合事業は、失敗であったと。見直すべきです。

日下部さんからの今後の方向性は、
①要介護者への拡大をさせない!=次期(2027年の10期改訂)見直しに向けて再重点課題
②要支援者の在宅ケアを支えるホームヘルプ・デイサービスの拡充
③地域支援事業ではなく保険給付に戻す運動の全国的構築
を提案していただきました。私たちの主張とも合致する方向性!
引き続き声を上げていきます。

オンライン学習会には、月曜の夜という日程ながら、60人もの参加がありました。
地域で介護事業をする現場の人、東京、神奈川の地域ネットのメンバー、また家族の介護をしている人など多様な参加者を迎え、意見交換も活発に行われました。
介護や社会保障制度の専門家でもある栃本一三郎先生もご参加くださり、更に理解が深まりました。コメントの中で、介護の大きな課題である報酬の議論にも触れてくださいました。本来ならば、基本報酬を上げて、介護の仕事の評価を高めるべきところ、加算、加算で濁している今の制度。あれもこれも・・・言いたいことがたくさんあります。

介護保険改定は、第9期の取り残し議論。そして第10期に向けた議論も開始し、異例の状況が続いています。
介護保険制度本来の理念である「介護の社会化」をすすめ、
保険として多くの人が望む「必要な時にサービスを受けながら、住み慣れた場所でできる限り暮らす。」ことを実現できる制度として、今一度見直しを求め、アクションをおおぜいの仲間と共に続けていきます。