コロナ禍の子育て 〜ピッピ・親子サポートネットの調査から〜

これまで、ネット・青葉では、「一時保育」「小規模保育」の制度化や充実など、保育・子育て支援の諸課題に対し、地域のNPOやワーカーズと共に現場の調査や実践に基づいた政策提案を続けてきました。

今年の横浜市こども青少年局予算においては、「多様な保育ニーズへの対応」が大きく打ち出された予算編成となっており、私たちが長年主張し続けたことが実現しています。
・乳幼児一時預かり事業運営補助額が引き上げ
・保育所での一時保育の拡充
・非課税世帯・ひとり親世帯への利用料減免制度の新設。
・大きな保育所整備の鈍化。小規模保育の増加へ。
・乳幼児一時預かり事業と保育所での一時保育の情報一元化(・・・保育所を所管する保育教育運営課への子育て支援課の統合により進む可能性が高い。)

今年は、コロナ禍で、保育ニーズが一気に変わった一年でした。
テレワークの推進などにより多様な働き方が一気に社会化され、求められる支援も変化をしています。

NPO法人ピッピ・親子サポートネットでは、外側からは見えにくい家庭生活の中で、保護者はどんな困りごとを抱えているのか、いち早くアンケート調査等を実施し、報告をまとめています。

そこで、3月7日、オンラインで
コロナ禍における保育・子育て支援のニーズと支援制度について考える」学習会を開催し、調査結果を報告いただくと共に、参加者と意見交換を行いました。

コロナ禍、緊急事態で寄せられた支援ニーズ

ピッピ・親子サポートネットの河野暁子さんからは、昨年8月、緊急事態明けてひと月という時期に行った保育所の保護者アンケートの結果をご報告いただきました。(NPO法人さくらんぼ・横浜国大相馬教授との合同調査研究)

昨年の最初の緊急事態宣言時、保育所は、原則開園とされながら、可能なら登園を控えるようにと保護者にお願いをする旨の要請がありました。休む、休まないの選択を保護者に求めておきながら、責任の所在が曖昧な状況でした。

 ・8~9割が保育園を休ませた
 ・2割の人が、仕方なく休ませたと回答。


自粛期間中の仕事の状況を尋ねる質問では、保護者の男女で大きな差が出ました。

男性では、「出社して就労」が多く、女性では、「自宅で仕事をした人」が多いという結果。
さらに、女性は、「特別休暇や有給休暇を取得した」率が高い結果が出ました。

自由記述からは、
・子供を連れて行く場所がない。遊ぶ場所がない。
・どうやって遊んでいいかわからない。
・食事作りの負担が多い。
・夫の食事作りが苦痛。
・子供がいる中でも仕事の難しさ。
・子供との生活にストレスを感じた。

多くの人が抱えていた困りごとを、当時は相談する場もなかったもどかしさを保護者、保育者双方抱えていたことが想像できます。

ストレス度調査では、0歳児の保護者が最も高かったそうで、
初めての子育てで、実家に頼れない。相談場がない。といった辛い状況が見えます。


こうした調査結果から、河野さんは、
子どものケア責任をめぐり可視化された論点を4つ挙げています。

1、性別役割分業
・出社したのは男性が多い。女性は特別休暇、有給休暇を取得している。
・仕事をする上での困り度は、女性の方が高い
・気がかりなこととして、男性は社会活動、女性は、家庭やこども内面への不安の傾向が高い。

2、女性の非正規労働者が直面する不安定な就労環境
・女性で自宅で仕事をした人は、正規に圧倒的に多い。
・仕事を減らした、仕事がない状態の人は、非正規が正規の5.5倍
・非正規の母親の就職活動が難航した事例は複数発生

3、社会的弱者へのしわ寄せ
・シングル家庭は、経済的、精神的な不安共に大きい。

4、階層化の先鋭化
・認可保育所と小規模保育条例利用者の就労状況に格差がある。


緊急事態宣言下の困難度は、弱い立場により高い。
ということが言われていますが、保育所の保護者の状況をとってみても、顕著に表れていると言えます。
男女差もまた、同様です。
さらに、別の調査から、保育所に預けていない母親からも、家事の負担が高まった。子ども達の育児の不安と言ったストレスを抱える声が届いています。

一方、一定数父親が子育ての喜びを覚えた、家族の時間が増えたといったプラスの声もありました。

 

新型コロナウィルス感染問題下での小規模保育事業の実態調査

ピッピ・親子サポートネットの理事長であり、全国小規模協議会理事の友澤ゆみこさんからは、横浜市内に約200箇所ある小規模保育事業所に対し行った実態調査の結果をご報告いただきました。(回答率57%)

小規模保育事業所の傾向として、退園が非常に多くあった。

これは、先のアンケート調査の論点4にある認可との就労状況の格差からも裏付けられる状況です。
認可に比べ、小規模保育の保護者に非正規割合が高く、利用調整基準が低い場合が多い。つまり社会的影響を受けやすい階層が多い結果でした。

保育所の職業要件には該当しないけれど、保育が必要であることも多く、柔軟な保育や子育て支援との連携が不可欠です。
また、厳しい状況下で保育所が、保護者、とりわけ孤立した子育て家庭へのサポートを強化して対応していたことがわかりました。

 

産前産後ヘルパー等子育て支援ヘルパー派遣事業所アンケート
コロナ禍では、実家の支援が受けられない。単身赴任の夫の不在。
ということから、よりアウトリーチ型の支援のニーズが高まったことが考えられます。
そこで行われたアンケート調査。(現在事業を行っている43事業所のうち、その半数の21箇所から回答を得ています。)

結果から、7〜8月だけでも、多くの問い合わせがあったことがわかりました。
しかしながら、人員の不足、日時の調整が叶わないなどの理由からで63%も断らざるをえなかった。
一方、利用のキャンセルは43%にのぼり、ヘルパー事業の不安定さも浮き彫りになりました。

私たちは、横浜ユニット連絡会等を通じて、アウトリーチ型支援の充実を横浜市に対して求めてきました。
産前産後ヘルパー支援のこうした提案に対しては、残念ながら2021年度予算には充分な見直しはありません。

友澤さんからは、改めて、
・利用手続きの簡素化、
・ヘルパー派遣に関わる事前のコーディネートに対する加算
・親支援の重要性。特にきょうだい児の送迎支援を可能とする制度の見直し

と言った提案がありました。引き続き働きかけを続けます。


今回の学習会には、様々な保育・子育て支援の現場からの参加があり、緊急事態下の厳しい子育て環境に対し、多様な知恵と工夫で乗り切ってきたそれぞれの状況も共有できました。
コロナウィルスの感染拡大は、子育てを取り巻く社会の厳しい一面を明らかにしました。
その状況下でも現場では、閉ざすことなく地域に窓をひらき、様々な支援を模索し続けています。

「多様化する生き方働き方に対し、保育所、一時保育、その他多様な子育て支援を繋ぎ合わせることで様々なニーズに応え、
子育てを地域社会全体に広げていくことも期待できる。」

という河野さんの提案には、前向きな思いが込められていて、これからの子育て支援のあり方の可能性を感じます。

これから、保育・子育て支援は、少子化が深刻さを増すにつれ、更なる変化も予想されます。
今後の政策動向も見据え、現場のリアルな声に基づいた保育・子育て支援を引き続き提言していきます。

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