生活困窮者支援とまちづくり
生活困窮者自立支援制度に関する学習会が連続しています。11日は、「生活困窮者支援とまちづくり 共生保障という視点」というテーマで中央大学の宮本太郎教授にお話しを伺いました。
宮本教授といえば、生活困窮者自立支援のあり方等に関する論点整理のための検討会座長、まさに今国で制度の見直しの議論が行われている社会保障審議会の委員という、制度を作り上げてきたそのお一人。
2015年この制度が施行になる際には、神奈川ネットでご講演いただいたことが思い出されます。
あれから3年。制度が思い描いた社会に少しでも近づいたのか、改めてこの節目にお話しを伺い、非常に貴重な機会を得ることができました。
1967年、1億人社会を迎えた日本は、2053年再び1億人を切る社会を迎えます。
1967年と2053年では、その人口構成は大きく異なります。
現役と高齢世代が『10:1』だった1967年に対し、2053年は『0.5:1』
現役世代が高齢世代を「支える」というより「荷を担ぐ」といった状況、これまでの「支える」仕組みが機能しなくなるのは明白です。
さらに、2007年生まれの半数は、107歳まで生きる。
という驚くべきデータが示されました。(カリフォルニア大学)
夢に見た長寿社会の到来です。しかし、素直に喜べないのはなぜでしょうか?
宮本先生は、その理由を3つ挙げていました。
1、困窮問題…高齢者の困窮度は顕著。高齢単身女性の半数が生活保護へ。というシミュレーションもあり、厳しさは増しています。
2、孤立問題…金銭的な課題同様に深刻なのが、孤立化です。
3、終活問題…非宗教社会である日本において、「死」を議論する機会がますます減っています。「死」をタブー視することは「生命」を語らないことに等しく、人生の最後を迎えることへの不安ばかりが募る。実は大きな課題をはらんでいると指摘がありました。
一方、現役世代の側にも困難が広がっています。子どもの貧困率は改善されましたが、所得の中央値は下がり続けています。非正規雇用の広がり、未婚率の上昇、少子化・・・「進学」「就職」「結婚」「出産」という人生の幸福なステージが、そのまま全て大きな壁となっているというのが現状なのかもしれません。
これまで自治体は、「困難」を分別し、厳しい縦割りを敷き「働けない人」を選別、選別された「働けない人」だけを福祉に繋ぐ、という体制を作り上げてきたと宮本教授は指摘します。
基準通りの「困難」にはまらない人は、対象から漏れ、深刻な事態に陥る可能性もあります。
そこで生まれた生活困窮者自立支援制度は、この縦割りで分断された機関を必須事業である自立相談支援でつなげ、足りない部分を任意事業で補完してゆくことを期待されていました。
施行から3年。
事業の効果は認められつつあるものの、制度上の課題とともに、社会課題もまた浮き彫りとなりました。ワンストップの機能を期待された自立相談支援ですが、それを担う支援員への丸投げ状態。それぞれの機関が持つべきソーシャルワークスキルの向上にはなかなか繋がりません。
ワンストップ窓口が流行りのように乱立し、結局は一元化されることなく、縦割り排除への道はまだまだ遠いようです。
これからの生活保障は、就労や住まいを通じた、社会につなぎ止める「場」の創出が求められる。と宮本教授は仰います。
障がいや、生活困窮状態の人などあらゆる人が働ける新しい就労の仕組み「ユニバーサル就労」。そして、「地域型居住」と呼ばれる、地域で多世代が暮らし、就労や活動を通して支えあうような住まいの姿を先進事例と共に紹介いただきました。
居住・就労・福祉の複合体を作り出すには、社会的企業の存在が鍵となります。さらに自助の互助共助を公助で支える包括的支援を目指す未来図です。
足元ばかりに目が行きがちですが、望む未来を描くことの大切さにも気づかされました。
これからを見据えた「公」のあり方、制度改定に求められるものを今後も探っていきます。