第3弾「ナラ枯れを考えるミニフォーラム」早野へフィールドワーク

7月10日、第3弾となる「ナラ枯れを考えるミニフォーラム」を開催しました。今回は早野聖地公園の里山ボランティア活動のフィールドワークです。

緑の美しい季節だからこそ、ナラ枯れが目立ちます

早野聖地公園は、
青葉区北部に隣接する川崎市麻生区にある緑地で、川崎市の墓園の整備が進められています。その広大な緑地の一角の谷戸に「早野庵」という炭焼き窯があります。
この辺りは、200年の昔から「黒川炭」として名を馳せた炭の生産地で、歴史的にも炭焼きが行われてきた土地なのだそうです。雑木林で育った木々は伐採され、炭となり、人々はそこに新しい木々を植える里山の循環があった場所でした。早野聖地公園里山ボランティアは、その姿を再生すべく、伐って育てる森づくりを24年にわたり取り組んでいます。会長の小泉さんと加藤さんにお話を伺いました。

ナラ枯れ対策
早野で最初のナラ枯れが発見されたのが2020年の8月。炭焼き窯から見上げた丘の上にある樹齢約65年の大きなコナラの木でした。立ち枯れて、根元はフラス(木屑)に覆われていたそうです。9月には、枝打ち後ボランティアメンバーによってこのコナラの木は伐採されました。

最初に伐採されたコナラの切り株

ナラ枯れは、カシノナガキクイムシが木に入り、メスを呼び寄せ、そのメスの背中にあるナラ菌が木の育成を阻害し枯らしてしまいます。(第1弾ミニフォーラムレポートを参照ください)

カシナガキクイムシは、伐採した木から飛散し、被害が拡大することから、早野では、伐採後の飛散防止対策にも取り組んでいますが、その方法が実に徹底しています。伐採した木には、切り株も含めて炭焼きでふんだんに得られる木酢液をかけて殺菌します。その後、ビニールシートで包んで丸太を運ぶ。残った切り株もしっかりビニールで密封し、その上から開封されないように、注意書きを貼り付けます。木酢液のナラ菌への殺菌効果は、検証されている訳ではありませんが、この地で実証されていると言えるでしょう。殺虫剤を撒くわけに行かない森の中で、自然に影響を与えず殺菌できる古来のヒトの知恵に改めて驚かされます。
また、観察の結果、ビニールシートの中にカシナガの死骸はないがムカデがいたことから、小泉さんたちは、カシナガの天敵がムカデではないか?という推測しています。

さて、伐採した木の処理についてですが、早野聖地公園では、3つの方法を用いています。

1、火葬=焼却、炭焼き

2、水葬=原木の乾燥時の木酢液散布

3、土葬=炭にできない木を腐葉土置き場に埋める

薪としての焼却は、私たちも第2弾のミニフォーラムで試みたわけですが、飛散防止の観点から、遠隔地への移動が難しい。という問題がありました。しかし炭にできれば活用は大きく広がります。

ナラ枯れ木の炭

この早野聖地公園でナラ枯れした木から作られた炭は、実際に

・二ヶ領用水の川崎堀に炭を沈めて水質浄化に利用

・麻生区役所、市民館のトイレの脱臭

などで活用され、この取り組みが川崎市のスマートライフスタイル大賞を受賞しています。

ナラ枯れした木を伐採した後には、植樹が行われます。植えるのはこの地で生まれたどんぐりを発芽させ、苗圃で育てた木々です。それを近隣の小学校の里山学習で、子どもたちの手によって卒業記念に植えられています。

植樹された若い林

里山の循環とナラ枯れ
早野聖地公園の里山の再生とナラ枯れの対策は、ナラ枯れ木をも里山の循環の中に取り込んでいく、見事な方法でした。しかし、ボランティアの手で木を伐採し、炭焼きを行うとなると、他の地域で同様の対策を取るのは難しいかもしれません。

ナラ枯れは、古木、大木に見られ、若木には発生しません。「かつて人の手で育まれてきた里山の樹林地が放置されたことが、ナラ枯れ被害拡大の一因である」という小泉さんの見解は、第一回の樹木医持田さんのお話とも重なります。私たちの里山や樹林地の保全に対する姿勢を見直す時がきているのではないでしょうか?とはいえ、ナラ枯れの拡大を止める決定打は今のところありません。しかし、対策せずに放置すれば、公園や、道路脇で、倒木、落枝などの事故が懸念されることから伐採と飛散防止対策には最低限取り組む必要があります。伐採には多額の費用がかかりますが、その後の事故の可能性を思えば、早めの対策が最善でしょう。

左の炭焼き小屋から木酢液を抽出する煙突が伸びる

行政の計画は?
神奈川県によると、ナラ枯れ被害本数は、初めて発生が確認された2017年239本から2021年には28,991本と約100倍に増加しており、極めて深刻な状況と言えます。(参照:神奈川県発表資料

早野聖地公園里山ボランティアの活動もあって、川崎市では、昨年3月の補正予算にナラ枯れ対策費が1億6400万円計上された他、今年度予算では通常の公園緑地等維持管理費の増額、また森林環境譲与税を活用して、自然保護対策費の増額もされています。

一方横浜市では、公園や樹林地の維持管理費の中で対応するとされていますが、今年度予算は昨年に比べて大きな増額はありませんでした。

いつまで目を瞑って見過ごしていくのか・・・
公園には色のついたリボンを巻かれ、伐採を待つ木がどんどん増えています。

最近発見されたナラ枯れ。一月前までは元気に見えたそう…