医療現場から見た 横浜市のギャンブル依存症対策

3月22日、横浜未来アクション主催の学習会「医療現場から見た横浜市のギャンブル依存症対策」を
ことぶき共同診療所の精神科医師、越智祥太さんをお招きして開催しました。

神奈川県は、国の「ギャンブル等依存症対策基本法」施行により「都道府県ギャンブル等依存症対策推進計画」の策定が努力義務とされたことから、3月中に「神奈川県ギャンブル等依存症対策推進計画」の策定を予定しています。横浜市は、国の「依存症対策総合支援事業実施要綱」において定められた、地域支援計画として3月8日「横浜市依存症対策地域支援計画(仮称)」素案を公表し、4月6日までパブリックコメントを募集しています。

依存症対策が進むことは歓迎しますが、いずれも、カジノ・IR推進に伴う懸念事項対策として、策定を急ぐもので、その実効性が気になります。「神奈川県ギャンブル等依存症対策推進計画」に続いて、パブリックコメントを提出したい!
と言うことで、「横浜市依存症対策地域支援計画」を読み、さらに医療現場から依存症対策の現状を知る学習会を企画したものです。

講師:越智祥太(おちさちひろ)さん
千葉大卒。現在横浜のドヤ街寿町のことぶき共同診療所勤務。寿町では20年超働き、一般内科・心療内科・精神科と共に様々な依存症や、過労・解雇等での心的負荷も診療。横浜駅や蒲田大森や多摩川の野宿者の訪問を行う。横浜へのカジノ誘致に反対する寿町介護福祉医療関係者と市民の会(KACA)を結成。

越智先生は、その経験から、依存症は「ほどほどに他人に依存していくことでしか回復できない孤独・孤立の病」だとおっしゃいます。
残念ながら、病院に通院するだけで回復することは難しく、自助グループのような仲間との関係を築きながら回復を目指す伴奏型支援が重要なのだそう。

それでも、アルコール依存から自助グループの中で20年お酒を断って回復した人が、その20年の祝いの席でお酒を飲み、1週間後にアルコール中毒で病院に送られたケースもあった。と。
依存症は心のブレーキが壊れる病気。錆びたブレーキは、20年経っても治らない。というお話は、衝撃的でした。

コロナ禍の依存症

このコロナ禍で、依存症は確実に増加しています。インターネット依存が増加していることは容易に想像できます。
競輪競馬は、現地に出かけることはできなくても、売り上げが増加しているのだそうです。
コロナ禍の影響は非正規労働者に大きく、失業、休業などにより生活困窮する人を生み出します。
また、非正規労働者は圧倒的に女性に多く、女性の自殺者が多いことは、無関係なはずはありません。
貧困で依存症が増え、さらに貧困状態が深刻化するケースは後を断たず、野宿状態から自殺にまで至る人もいます。
「依存症の現状は、ここまで切迫しているのに、この計画(横浜市依存症対策地域支援計画)には、切実さが全く感じられない!」
と言う、明日も寿町で夜回りに出かける越智先生の言葉が刺さります。

これまでの行政が言うところの依存症対策は、『普及啓発』と『連携』でした。
そこからPDCAサイクルを回すというこの新しい計画は、「もっと『普及啓発』と『連携』をする」と言う内容に過ぎない。と越智先生は解説しています。
なるほど「横浜市依存症対策地域支援計画」には、『普及啓発』という言葉が数えたら本文だけで109回『連携』は156回も出てきます。
もちろん啓発と連携は大切ですが、実際の依存症の対処は、結局民間に頼っているのが現状で、この計画は管理する側の視点に立っているとの指摘がありました。
依存症対策の計画は、まず当事者と関わるところからスタートし、当事者・当事者家族の参加型でその意見が反映されるべき。
というのが越智先生の願いです。

構造的課題

巨大な横浜市に保健所は一つだけ。
横浜市の縦割り構造は、保健所業務も同様で、ソーシャルワーカーは、その担当を高齢、障害、母子保健といったように専門が分かれています。
しかし、当事者が抱える問題は、多くが重複しており、一つだけを見ていても解決することはありません。
必要なのは、ワンストップの支援、こうした構造の改革ではないかという提起もされています。

予防?支援?
予防医学では、一次予防は、要因に「接しない」「離れる」という環境設定が重要とされています。二次予防は、早期発見・早期対策。三次予防は、再発防止です。しかし、この計画の中では、あえて「予防」と言わず「支援」という言葉に置き換えられています。
予防の観点からすれば、環境設定の重要性は最も重要で、その概念そのものにカジノ・IR事業の推進は反していると言わざるを得ません。
だから、「予防」と言うことができずに「支援」と置き換えたのではないか。との越智先生の分析には唸らされました。

質疑応答でも、長く看護師をしていた参加者の方から、アルコール依存の患者さんが、固い決意に反して病院に舞い戻ってくるケースを経験し「現場では、環境設定の重要性を強く叩き込まれてきた。なのに、なんでわざわざ賭博場を作るのか?」と声がありました。
今回の学習会には福祉の現場に携わってきた参加者が多く、そうした現場では、少なからず依存症の人と接しています。
その苦しみも理解すればするほど、この依存症対策の空虚さが目立つのだと思います。

依存症は誰でもなりうる病。
だからこそ、その環境要素を作らないことが重要。
と言うことが、当然対策の中には盛り込まれているべきです。
その一言だけでも、意見してみませんか?

「横浜市依存症対策地域支援計画(仮称)」素案のパブコメはこちらから。4月6日までです。

恒例の記念撮影。パチリ!