「時間を選んで働く」―ドイツの働き方改革―

8月7日、新しい生き方・働き方研究会による学習会「時間を選んで働く―ドイツの働き方改革―」をオンラインで開催しました。

講師は、筑波大学名誉教授で、現在ベルリン自由大学フリードリヒ・マイネッケ研究所等で客員研究員を務める田中洋子さん。田中さんには滞在中のドイツからオンラインでご参加いただきました。日本では18時のスタートでしたが、ドイツは午前11時。海を越えて、ドイツの働き方改革の実際と、そこから日本が学べることについてお話しいただきました。

1990年代まで、日本とドイツはよく似ていた

現在、ジェンダー平等の状況に大きな差がある日本とドイツ。しかし田中さんのお話で印象的だったのは、1990年代まで両国の社会や働き方はとてもよく似ていたということです。どちらも、重工業の大企業などで働く男性正社員と、家庭を担う専業主婦という家族モデルが中心。企業の管理職も男性を前提とした、いわば「男性モノカルチャー」の社会でした。
ところが、その後ドイツは大きく変わっていきます。ジェンダー平等を進めるとともに、一人あたり・時間あたりの生産性も日本を大きく上回るようになりました。
同じようなところから出発した日本とドイツが、なぜこれほど違う社会になったのか。ドイツは何を変えてきたのか。
田中さんがその大きな鍵として示したのが、「働く時間を自分で選べるようにすること」でした。

男女格差の背景にある「働く時間」

日本では、女性活躍や男女共同参画に向けたさまざまな政策が進められてきました。しかし、ジェンダーギャップは依然として大きく、男女の賃金や管理職比率にも大きな差があります。

田中さんが、その大きな要因として指摘したのが「働く時間」です。

日本のフルタイム労働では、長時間労働や残業、転勤などが当然のように求められ、それが育児や介護などのケアを担う人(=主に女性)にとって大きなハードルとなっています。一方、家庭との時間を確保するためにパートなどの非正規雇用を選べば、賃金や昇進、雇用の安定などで不利になる。
つまり、「キャリアを維持するなら時間を差し出す」「時間を確保するなら処遇やキャリアをあきらめる」という構造そのものが、男女格差につながっているという指摘です。

ドイツでは「時間を選ぶ」ことが働く人の権利に

これに対してドイツでは、働く人が個人や家族の事情に合わせて労働時間を選べる方向へ改革が進められてきました。
たとえば「時間口座」という仕組みでは、忙しい時期に長く働いた時間を貯め、別の日に早く帰ったり、休日に振り替えたりすることができます。オフィス勤務では、一定のルールの中で出勤・退勤時間やその日の勤務時間を自分で選ぶこともできます。

さらにドイツでは、企業の側が従業員を一律の働き方に合わせるのではなく、一人ひとりの人生や生活に働き方を合わせていく「人生対応型人事政策」も広がっています。

紹介された企業の言葉、「人を会社に適応させるのではありません。私たちは、人に会社を適応させなければなりません」は、日本の働き方を考える上でも印象的でした。

「パート=非正規」ではない

もう一つ、日本とドイツの大きな違いとして紹介されたのがパートタイムの位置づけです。
ドイツでは、パートタイムは日本のように「非正規雇用」を意味するものではありません。働く時間が短くても正社員であり、いわば「短時間正社員」です。
2001年のパートタイム法によって、正社員のまま労働時間を短くする権利が認められ、給与は働いた時間に応じて比例計算されます。社会保険や有給休暇、福利厚生、昇進・昇給などの処遇も基本的に変わりません。

「今は70%で働いているけれど85%に増やす」「親の介護が必要になったから100%から75%にする」「子どもが大きくなったので100%に戻す」――そんなふうに、人生の状況に応じて働く時間を変えていくことができます。

しかも短時間勤務を選べるのは育児や介護をする人だけではありません。理由を問われず、裁判官や官僚、企業の管理職、などもパートタイムで働くことができるのだそうです。

日本でも始まっている「短時間正社員」

こうした働き方は、決してドイツだからできるものではありません。

田中さんからは、日本でパートを全廃し、短時間正社員へ転換した企業の事例も紹介されました。
それまで有期雇用・時給制だったパート従業員を無期雇用にし、労働時間の長さではなく仕事内容を基準とした同じ給与体系を適用。勤務時間についても、20時間、30時間、フルタイムなどから選択し、希望に応じて行き来できる仕組みに変えました。

その結果、働く人のモチベーションが高まり、退職率も低下。女性リーダーが増え、パート勤務から管理職へキャリアアップする人も生まれたことが紹介されました。

インタビューに答える管理職の人の「人間を中心に据えた経営」という言葉がとても印象的でした。

管理職も二人で担う「タンデム」

さらに興味深かったのが、ドイツで広がる「タンデム」と呼ばれる働き方です。

一つの管理職ポストを、短時間勤務の二人で担うジョブシェアリングです。「やりがいのある仕事を続けてキャリアをつなぎたい」「今は家族のために働く時間を短くしたい」という二つの希望を両立させる仕組みです。

実際の企業では、それぞれが得意な仕事を分担しながら情報を共有し、一つの管理職を二人で担っています。仕事を一人で抱え込まずに済むことで、時間のゆとりだけでなく、二人で話し合うことから新しいアイデアが生まれるというメリットも紹介されました。

「時間を選べる社会」を地域から

田中さんのお話を通じて見えてきたのは、単に労働時間を短くすることだけが「働き方改革」なのではない、ということです。

大切なのは、自分の人生や家族の状況に応じて、働く時間を自分で選び、変えていけること。そして時間を短くしたことによって、雇用の安定や待遇、キャリアまで失わないこと。

田中さんは、男女格差を縮小し、誰もが働きやすい社会をつくる鍵として「時間選択権」「時間主権」の拡大を挙げました。フルタイムでもパートタイムでも同じ処遇のもとでキャリアや昇給を継続でき、短時間勤務でも管理職を担うことができる。そんな働き方への転換です。

このお話を聞きながら、私たちが地域で実践してきたワーカーズ・コレクティブという働き方にも重なるものを感じました。

ワーカーズ・コレクティブは、雇う・雇われるという関係ではなく、働く人自身が出資し、経営や運営に参加しながら、地域に必要な仕事をつくっていく働き方です。子育てや介護など、それぞれの生活を大切にしながら働き続けられるよう、働く時間や仕事の分担についても自分たちで話し合い、決めてきました。

ドイツの「時間選択権」は、法律や企業制度として、働く人の側に時間の決定権を取り戻していく改革です。一方、ワーカーズ・コレクティブは、働く人自身が経営に参加することで、働き方そのものを自分たちでつくっていこうとする実践です。アプローチは異なりますが、そこには、「仕事に人を合わせるのではなく、人のくらしに仕事を合わせる」という共通する考え方があるのではないでしょうか。

田中さんは最後に、「日本社会をどのような方向で変えていくかを議論し、発言し、動かしていくのは私たち自身」と投げかけました。

1990年代までよく似ていた日本とドイツ。その後の違いは、社会の仕組みは変えることができるということも示しています。

誰もがくらしや人生を大切にしながら、自分らしい働き方を選べる社会をどうつくっていくのか。私たちが地域で進めてきた働き方の実践も重ねながら、改めて考える学習会となりました。