「実践から制度をつくる」―一時保育から始まった子育て支援

第3回くらしを拓く市民政治講座 ②

8月29日の市民政治講座。後半は、若林智子さん(NPO法人ピッピ・親子サポートネット理事長、神奈川ネット元横浜市議・神奈川県議)から、「実践から制度をつくる―一時保育の取り組み」をテーマにお話を伺いました。

目の前の「困った」を地域で受け止め、その実践を制度へとつなげてきた約25年の歩み。いつも共に活動している若林さんとピッピ、神奈川ネットのこの実践を、多くの人にも知ってほしい。という思いで今回の講演をお願いしました。

若林智子さんーNPO法人ピッピ・親子サポートネット理事長、神奈川ネット元横浜市議・神奈川県議

「働いていても、いなくても預かる」

ピッピ・親子サポートネットが大切にしてきた基本姿勢は、

「目の前のひとりの『困った』に寄り添うことから始まる」というものです。

「働いていても、いなくても預かる」「共に育ち、共に暮らす」。保育園を、働く親の子どもだけでなく、すべての子育て家庭に開かれた場所にしたいという考え方です。
その原点の一つが、1999年に神奈川ネットが始めた「子どもミニデイサービス」プロジェクトの取り組みでした。

当時の保育政策は、就労などの「保育に欠ける」要件を中心に組み立てられ、多様なニーズには十分応えられていませんでした。
そこで、「ないものはつくってみる」。就労の有無にかかわらず、子育て支援を必要とする人が利用できる地域の預かりを、自分たちで実践するところから始めました。

制度を変えるために、保育園をつくる

子どもミニデイサービスの実践から見えてきたのは、子育ての孤立や、障害児を育てる家庭への支援不足、そして「いつでも、どんな理由でも預けられる場所」がないという現実でした。

そこで取り組んだのが、「働いていても、いなくても預かる」認可保育園をつくることでした。

2005年、ピッピ保育園を開所。定員30人の認可保育に加え、定員15人の一時保育をスタートしました。目指したのは、親が働いているかどうかにかかわらず、子どもにとって公平・公正な制度とすること、そして認可・認可外を問わず一時保育を充実させることでした。

実践を調査し、制度提案へ

現場をつくっただけでは終わりません。
当時、横浜市議だった若林さんは、地域でともに子育て支援に取り組む団体や神奈川ネットと連携し「つづき・あおばここクラブ」を結成。一時保育の実施状況や保護者へのアンケートをもとにフォーラムを開催。そこから、週3日以内の就労に対応する保育の受け皿が足りず、「子どもを預けるために、本当は望んでいない週4日以上の就労を選ばざるを得ない」という矛盾や、緊急利用・リフレッシュ利用への高いニーズ、育児の孤立などを明らかにしていきました。

こうした実践と調査、政策提案が、横浜市の「理由を問わない一時預かり」の制度化につながりました。

2008年に横浜市乳幼児一時預かりパイロット事業が始まり、その後、利用料金は1時間800円から500円へ、さらに認可保育所の一時保育と同じ300円へと見直されました。
さらに、障害児加算、利用料の減免、0歳児加算、多胎児減免などなど、現場からの提案によって制度改善が積み重ねられてきました。

まさに、実践→調査→政策提案→制度化→さらに実践という循環です。

「こども誰でも通園制度」の先へ

2026年4月からは、「こども誰でも通園制度」が本格実施されています。

働いていなくても子どもを預けることができるという意味では、長年取り組んできた方向に社会全体が大きく動いてきたともいえます。一方で、一時保育には、保護者の負担軽減や一時的な家庭保育の困難への対応など、「こども誰でも通園制度」とは異なる役割もあります。

先日、私も一緒に横浜市を訪れ、一時保育に関するヒアリングを行いました。その際、横浜市が「両者を含む短時間預かりを包括的に利用できる方向」を示したことも紹介されました。

待機児童対策が大きな課題だった時代から、いまは「ポスト待機児童」の時代へ。

働き方や暮らし方はますます多様になり、少子化も進んでいます。これからは「つながる保育」「地域おやこ園」「出向く支援」など、保育園が地域の子育て家庭とつながっていく役割も重要になります。

「今、なぜこの制度が必要なのか」

若林さんが制度をつくるうえで大切にしてきたのは、目の前にあるニーズだけを見るのではなく、「その向こう側」を想像すること

一人の「困った」の背景に、同じような困難を抱える多くの人がいるかもしれない。その実態を調査し、他団体と連携し、「今、なぜこの制度が必要なのか」という社会的な必然性を示す。それによって、一つの実践を、より多くの人が利用できる制度へとつなげていく。

「目の前のひとりの『困った』に寄り添う」

そこから始まった小さな実践が、調査や市民活動、議会での政策提案を通して制度となり、また次の実践につながっていく。

お二人の共通ワード「ないものはつくる」偶然同じ言葉が出てきて、驚きました。

市民が地域で必要なものをつくり、その実践から政治を動かしていく――「市民政治」とは何かを、若林さんの話を通じて、具体的に伝えることができたのではないかと思います。
この取り組みが伝説にならないように。私たちも次へ!