スクールソーシャルワーカーの現場から

7月19日、神奈川県立高校でスクールソーシャルワーカーとして活動されている美濃屋裕子さん(社会福祉士・公認心理師・学校心理士)を講師に迎え、「スクールソーシャルワーカーの現場から」学習会を開催しました。

高校生や若者の支援に携わる現場から見える課題や実践、さらにドイツでの視察を通して学ばれた若者支援の仕組みについてお話しいただきました。

スクールソーシャルワーカーとは

神奈川県では2015年度から県立高校にスクールソーシャルワーカー(SSW)が配置されています。SSWは社会福祉の専門職として、家庭環境や経済的困難、精神的な不調など複合的な課題を抱える子どもや家庭を支援しています。

「学校生活は、安心して暮らせる生活基盤の上に成り立つもの」。地域のさまざまな支援機関と連携しながら、生徒一人ひとりに寄り添い、生活そのものを支えることがSSWの役割であることが紹介されました。

高校生を取り巻く現状

高校進学率は97%を超える一方、減少傾向ではありますが、通信制・定時制高校では全日制より中退率は高く、全日制では、中退率は1%程度ですが、若干増加傾向でもあります。

また、通信制、定時制高校では女子生徒の中退率が高く、その後、性産業につながるケースも多くあるのも女子の特徴です。コロナ禍以降はSNSを介したコミュニケーションが中心となり、人とのつながり方が大きく変化しました。コミュニケーションのトラブルが女子に顕著であることも一端ですが、生きづらさを抱えた女子に多いことがデータからわかります。

神奈川県ではスクールカウンセラーやSSWの配置拡充、「かながわ子どもサポートドッグ」の取組などにより、高校生を中心とした子どもの自殺は減少傾向にあることも紹介されました。

増加する市販薬のオーバードーズ

近年は市販薬のオーバードーズ(過量服薬)がここ数年急増していますが、さらに増加している実感があるとのことでした。グラフで見ると違法薬物の割合は以前より減少していますが、薬物使用そのものが減っているわけではなく、市販薬の乱用という新たな課題が急激に広がっています。

また、従来の「ダメ、ゼッタイ」といった違法薬物を前提とした薬物乱用防止教育だけでは、市販薬のODには通用せず、現在の実態に十分対応できていないことも指摘されました。

外国につながる若者への支援

外国につながる若者は、言語や文化の壁から進学や就職に困難を抱えることが多く、中退率の高さや、その先にも非正規雇用の多さなどの多くの課題があります。美濃屋さんからは、それに加えて、愛着障害を抱えるリスクも指摘がありました。

また、現在では、アルバイト先を見つけることも容易ではないことから、闇バイトなどの犯罪に巻き込まれる危険性も増加しています。

移民社会として経験を積んできたドイツでは、社会参加に向けた支援が制度として整えられていることが紹介されました。

若者支援の空白

現在は、第3次中学校受験ブームと言われ、教育虐待や過度な受験競争、SNSトラブルなどを背景に、精神的な不調や不登校に苦しむ子どもが増えています。その根本に氷河期世代の親の苦しかった時代背景が子どもに投影されている。というお話には、氷河期世代である私としても納得でした。「勝ち組」「負け組」などと分類された時代の、辛かった経験が危機感として残っていると言うのは、悲しい現実です。

親からの虐待や搾取、家庭内の深刻な不和があっても、児童相談所は受け入れに限界があり、高校生が利用できる支援は限られています。また、高校卒業後や18歳以降は支援制度がさらに少なくなり、困難を抱えた若者を支える仕組みが十分とは言えない現状も紹介されました。

トー横やグリ下などに集まる若者の背景には、こうした支援の空白もあることが示され、子どもから若者へと切れ目なく支える仕組みの必要性を改めて考えさせられました。

現場から生まれた「メリッサかわさき」

こうした課題を受け、美濃屋さんは「メリッサかわさき」という小さなフードバンクを立ち上げています。

一般的なフードバンクが世帯単位での支援を中心としているのに対し、この取組では、SSWからの相談を受けて学校を通じ、生徒本人へ直接食料を届けています。必要な子どもに確実につながる仕組みとして、学校と福祉が連携した実践が紹介されました。

私たちも参加し、地域で行なっている食支援の現場からは、高校生の必要性が見えていない現状があります。地域の高校などと連携して直接支援ができないか。今後是非とも検討していきたいです。

ドイツに学ぶ若者支援

美濃屋さんが「日独青少年指導者セミナー」に参加した経験から、ドイツの若者支援制度について報告がありました。

ドイツでは14歳未満を「子ども」、14歳以上18歳未満を「青少年」、18歳以上27歳未満を「若者」と法律で位置づけ、『自己の発達を促進する権利および主体性や社会性を身につけ、責任感を有する人格へと養育される権利』が保障されています。

また、「補完性の原則」のもと、地域や民間団体が主体となって支援を担い、小学生から27歳まで利用できる「ユースセンター」など、多様な支援の仕組みが整えられています。様々な年代に向けたユースセンターが各地にあり、保護者の許可なく自分で選んで利用できます。

かれこれ30年前、日独平和フォーラムでドイツを訪問した際に、私もユースセンターのような場所を訪れた記憶があります。若い人が集い、自由に自分たちの居場所を活用していたのを、感動と憧れを抱いたことを思い出しました。

ドイツには、「社会奉仕活動年」という仕組みがあるそうです。高校を出た後、希望者に1年間ボランティアなどに参加期間があり、活動には報酬もあります。「自分が何に向いているのか」「何がしたいのか」を考える猶予期間にもなっています。こういう時間が今の日本の若者にも必要なのではないか。と思いました。

若者自身が意見を表明し、仲間と合意形成を経験しながら社会参加を学ぶ環境づくりが、ドイツの民主主義を育てているのだと、日本との大きな違いを感じます。

現場から見える課題を社会全体で考える

質疑応答では、不登校や引きこもりへの支援、学校との連携、私立学校でのSSW配置などについて活発な意見交換が行われました。

今回の学習会では、子どもや若者が抱える困難は教育だけで解決できるものではなく、家庭や地域、福祉、行政などが連携して支えることの重要性を改めて学びました。

また、子どもから若者へと成長する過程で支援が途切れやすい現状や、社会参加を支える仕組みの必要性についても多くの示唆をいただきました。

誰もが安心して成長し、自分らしく社会の一員として歩んでいけるためには、学校だけに役割を求めるのではなく、地域や社会全体で若者を支える仕組みづくりが欠かせません。現場での実践とドイツの事例を通して、その重要性を改めて考える貴重な学びの機会となりました。